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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)6295号 判決

原告

堀口成子

被告

小湊鉄道株式会社

ほか一名

主文

被告らは、原告に対し、各自二八六万八五二一円及びこれに対する昭和五九年五月二五日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを八分し、その一を被告らの、その余を原告の各負担とする。

この判決は、第一項につき、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自二四〇四万円及びこれに対する昭和五九年五月二五日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一)日時 昭和五六年一二月四日午後四時三〇分

(二) 場所 千葉県長生郡一宮町一宮二六四七番地先路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車 大型バス(千葉二二か四五六)

(四) 右運転者 被告宮本昭(以下「被告宮本」という。)

(五) 被害者 原告

(六) 事故の態様 原告ら四名は、二列で本件事故現場道路の右側を通行し、道路が右に湾曲していたので右に曲がろうとした瞬間、対向して進行してきた加害車は、大回りして左折進行すべきであるのに、小回りして左折したため、加害車左側ドア部に歩行中の原告を衝突させ、原告に後記傷害を負わせた(以下「本件事故」という。)。なお、被告宮本は、原告を救護しないで、現場を立ち去つたもので、ひき逃げである。

2  責任原因

(一) 被告宮本は、加害車を自己のため運行の用に供していた者であり、また、加害車を運転し、前記過失により本件事故を発生させたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条、民法七〇九条により原告らの後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告小湊鉄道株式会社(以下「被告会社」という。)は、加害車を保有し、自己のために運行の用に供していた者であり、本件事故は、被告会社の従業員である被告宮本が被告会社の業務の執行中に前記過失により発生させたものであるから、被告会社は、自賠法三条、民法七一五条一項により原告らの後記損害を賠償する責任がある。

3  原告の受傷状況

原告は、本件事故により昭和五六年一二月六日から同月一七日まで都立墨東病院に通院し(脳外科九日、整形外科三日)、昭和五七年一月五日から現在まで順天堂病院に通院し(昭和五七年一月五日から四月三〇日まで脳外科三日、昭和五七年一月五日から昭和五八年一一月三〇日まで耳鼻科五三日、昭和五七年九月二九日から現在まで精神神経科五一日、昭和五七年一月整形外科二日)、昭和五七年一月二七日鹿浜医院に通院した。

症状につき詳説すると、原告は、本件事故によりその直後頭部に握りこぶし大の瘤ができ、昭和五六年一二月六日から左耳に雑音を感じるようになり、不眠、食欲不振、低血圧が生じ、都立墨東病院に通院し、同日、吐き気、嘔吐を伴う症状が発生し、同月一四日午後一一時五〇分ころ、救急車で病院に運ばれる事態となつた。

墨東病院の医師は、なるべく薬を使用しないで治療するということであつたが、不眠、食欲不振の症状が改善しないため、順天堂病院で診断を受けた結果、耳をだいぶやられているということになり、同病院の耳鼻科で治療を受け、頑固な耳鳴りの症状が改善し、昭和五八年一一月三〇日症状固定したが、耳鳴りは現在も続いている。

昭和五六年一二月四日併せて左腕を捻られたため、打撲を受け、墨東病院、順天堂病院、鹿浜医院で治療を受け、短期間で快方に向かつたが、未だに、寒いとき、季節の変わり目に家事をすると左肩甲骨が痛む。

耳鼻科診療中に頭部外傷の症状が現れ、話をしている最中に話している内容を忘れてしまうために、昭和五七年九月二九日同病院の精神神経科で診断を受け、不眠、抑欝、抑制不安、食欲不振等の治療を受け、現在も治療中である。

自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)調査事務所から自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級と認定され、現在もカウンセリングと投薬治療を受けている。そして、現在も、不眠、精神障害があり、頭部、耳、左背部(腕の付け根)の激痛が続き、精神安定剤、鎮痛剤で治療しているが、この症状は一生続くというのが、医師の見解である。物事に難問が生ずると、子供に凶器を突きつけたり、後先を見ない言動、行動をしてしまい、作業の意欲、精神を平静に保つ器質が損傷を受けたため、作業能力は、本件事故前の一〇分の一にも及ばず、掃除洗濯は月に二度しかできず、暇があれば横になり休養をとり、夕食の支度も不可能である。以上の後遺障害は、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表五級二号に相当するものである。

4  損害

原告は、以下のとおり損害を受けた。

(一) 治療費 一三〇万九〇〇〇円

原告は、本件事故による傷害の治療費として右金額を要した。

(二) 通院交通費 五万六〇〇〇円

原告は、本件事故による傷害の治療のため右金額の交通費を要する見込みである。

内訳

墨東病院 国電小岩駅から錦糸町駅まで往復三八〇円、通院九日、計三四二〇円

深夜救急車で運ばれた際の帰りのタクシー代五〇〇〇円

鹿浜医院 国電小岩駅から王子駅まで往復五四〇円、王子からバス代二八〇円、計八二〇円

国電小岩駅からお茶の水駅まで往復三八〇円、通院一〇九日、計四万一四二〇円

以上合計 五万〇六六〇円+今後の交通費

(三) 休業損害 四〇八万円

原告は、本件事故当時も主婦であり、本件事故により本件事故の日から二年間家事をできなかつたものであるから、一カ月当りの女子平均賃金は一七万円であるので、次の計算式のとおりの損害を被つた。

(計算式)

一七万円×一二×二=四〇八万円

(四) 傷害慰藉料 二〇〇万円

原告の、本件事故により受けた傷害による精神的苦痛を慰藉するためには、右金額が相当である。

(五) 後遺障害慰藉料 一一〇四万円

原告の、本件事故による前記後遺障害による精神的苦痛を慰藉するためには、一一七九万円が相当であるところ、自賠責保険から後遺障害慰藉料として七五万円の支払を受けているので、その残額の右金額を請求する。

(六) 逸失利益 一二三万一一四〇円

原告は、前記後遺障害のため、一七年間にわたり五パーセントの労働能力を喪失したものである。一カ月当りの女子平均賃金は一七万円であるのでこれを基礎とし、年五分の割合による中間利息の控除をホフマン式計算法(係数一二・〇七)で行うと、原告の逸失利益は次のとおりの計算式により右金額となる。

(計算式)

一七万円×一二×〇・〇五×一二・〇七=一二三万一一四〇円

(七) 美容院の損害 五五二万四〇〇〇円

原告は、本件事故当時美容院を経営していたが、すべて一人で行つていたため、長期休業通院により客が減少し、経営困難となり、右金額の損害を被つた。

(八) 損害のてん補 一二〇万円

原告は、自賠責保険から右金額の支払を受けた(他に七五万円の支払いを受けているが、これは、後遺障害慰藉料の費目欄で主張ずみである。)。

合計 二四〇四万円

よつて、原告は、被告らに対し、各自右損害金二四〇四万円及びこれに対する本件事故の日の後である昭和五九年五月二五日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)の事実中、事故態様は争い、その余は認める。事故態様のうち、加害車が原告に接触したことは認める。

2  同2(責任原因)の事実中、本件事故が被告宮本が被告会社の業務執行中のものであること、被告会社が加害車を保有していることは認め、その余は争う。

3  同3(原告の受傷状況)は争う。

原告の傷害は、本件事故後直ちに歩行して喫茶店に行けるくらい軽微であつた。このことは治療状況からも明らかである。原告は事故の翌々日である昭和五六年一二月六日に初めて墨東病院で受診している。左腕の打撲については、翌一二月七日までの通院により治癒している。頭部については墨東病院での検査結果は他覚所見は異常はない。その後、原告の愁訴は、頭痛、意識消失、耳鳴り、軽度の聴力障害、軽度の平衡失調、頚椎捻挫、左肩打撲、左背部痛等多方面に及んでいるが、他覚的所見は全く認められない。原告の治療は、昭和五七年九月二九日順天堂病院精神神経科に通院してから後は、耳鼻科と精神神経科の通院が主になり、最後は精神神経科のみの治療となつている。原告は順天堂病院での治療を受けているが、ここでも脳神経外科的には問題はないとの診断を受けている。耳鼻科での主訴は耳鳴りであるが、聴力検査では、左耳に八キロヘルツ域値上昇がみられるが、本件事故との相当因果関係は不明であり、これも心因性のものであるとされている。精神神経科における主訴は、耳鳴り、不眠、食欲不振、意欲減退、作業能力の低下、不安、抑欝気分等であるが、その愁訴に明らかなように、典型的な心因性のものである。これらは、神経症圏内の心気状態であり、昭和五七年一〇月から一一月にかけては、かなり軽快しているが、この間の治療は精神安定剤の投与とカウンセリングだけである。原告の受傷は極めて軽微であり、長くとも一〇日間の加療で治癒するものであつて、その愁訴及び長期に亙る加療は心因性のものに過ぎず、本件事故とは相当因果関係がない。以上のような事情であるので、後遺障害も全くないものというべきである。

4  同4(損害)の事実中、原告が自賠責保険から合計一九五万円の支払いを受けたことは認め、その余は争う。

原告は現実に稼働していたものであるから、実収入により損害を算出すべきである。昭和五一年から美容院を経営していながら、税金の申告もないのは奇妙であり、そうでなくとも、帳簿、伝票等は存在するはずである。加えて、客減少、経営困難による五五二万四〇〇〇円の請求は、全く根拠も示されておらず、法外というほかない。

三  抗弁

過失相殺

本件事故は、原告が狭い路側帯を二列に並んで歩行し、しかも、原告は路側帯を超えて車道内を歩行中加害車と接触したというものである。その接触地点は車道内であり、原告らが二列ではなく一列で歩行していれば、本件事故は発生しなかつたものである。仮に、被告宮本に過失があるとしても、原告には前記重大な過失があるので、損害賠償額の算定に当たつては充分に斟酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)事実中、事故態様を除いて当事者間に争いがない。

二  同2(責任原因)の事実中、被告会社が加害車を保有していることは当事者間に争いがない。そうすると、被告会社は、加害車を自己のために運行の用に供する者というべきであるから、自賠法三条により原告に対し、後記損害を賠償する責任を負うものというべきである。

三  本件事故の態様、被告宮本の過失の有無及び被告らの過失相殺の抗弁について判断する。

1  成立に争いのない乙一号証、三号証から五号証まで、被告宮本本人尋問の結果、原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

本件事故現場は、国道一二八号線方面から一宮駅方面に通じる歩車道の区別のない道路であり、国道一二八号線方面から一宮駅方面に向かつて左側に大きく湾曲しており、車道は区別されておらず、路面はアスファルト舗装がされており、平坦で本件事故当時は乾燥していた。右道路の幅員は左に湾曲し終つた部分は七メートルである。右道路は、左右の見通しは良好とはいえない(詳細は別紙図面参照)。

被告宮本は、加害車を運転して、右道路を国道一二八号線方面から一宮駅方面に向かつて進行し、本件事故現場に差しかかり、左折の方向指示をし、減速しつつ、時速一〇キロメートルを下回る速度で、左方へ方向転換していたところ、一宮駅方面から、道路右側を(加害車から向かつて左側)対面進行してくる二列縦隊の四名の歩行者を認めたが、対向車線を進行してくる車両に気をとられる等していたため、左折の回り方が小回りとなり、対面進行していた歩行者のうち、後列の道路中央側を進行していた原告に加害車を衝突させた。

原告は、前記のように本件事故現場を歩行進行してきたが、本件事故現場に差しかかつたところ、前記のように加害車が小回り左折したため、加害車に衝突された。なお、原告は衝突して、転倒したがすぐ起き上がり、すぐ歩行をはじめたため、被告宮本は、一旦停車させた加害車をそのままを進行させた。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定の事実を覆すに足りる証拠はない。

2  右事実に徴すると、被告宮本には、前記過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により原告の後記損害を賠償する責任があるというべきである。

3  また、本件事故発生につき、原告には、本件事故現場を二列縦隊で進行したことはあるにしても、右事実のみでは、過失相殺の対象となるような過失とは認められないから、被告の過失相殺の抗弁は理由がない。

四  原告の受傷状況

1  原本の存在、成立ともに争いのない甲二号証から一二号証まで、三三、三四号証、成立に争いのない乙六号証の一から六まで、第七号証、八号証の一から一六まで、第九号証から一六号証まで、一七号証から一九号証までの各一、二、第二〇号証から二八号証まで、三〇号証から三二号証まで、証人堀口公平の証言、原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

原告は、本件事故により、頭部外傷、左前腕打撲の傷害を受け、昭和五六年一二月六日から同月一七日まで都立墨東病院に通院し(脳外科九日、整形外科三日)、昭和五七年一月五日から現在まで順天堂病院に通院し(昭和五七年一月五日から四月三〇日まで脳外科三日、昭和五七年一月五日から昭和五八年一一月三〇日まで耳鼻科五三日、昭和五七年九月二九日から精神神経科は五〇回を超える多数回、昭和五七年一月整形外科二日)、昭和五七年一月二七日鹿浜医院に通院した。その症状は、事故後左耳に雑音を感じるようになり、不眠、食欲不振、低血圧が生じ、吐き気、嘔吐を伴う症状が発生し、頭部、耳部には他覚所見は全くなかつたものの、耳鳴りの症状が改善しないため、順天堂病院で診断を受け、同病院の耳鼻科で治療を受け、頑固な耳鳴りの症状が改善し、昭和五八年一一月三〇日症状固定したが、耳鳴りは、現在でも起こることがある。

原告の治療は、昭和五七年九月二九日順天堂病院精神神経科に通院してから後は、耳鼻科と精神神経科の通院が主になり、最後は精神神経科のみの治療となつており、脳神経外科的には問題はないとの診断をうけている。耳鼻科での主訴は耳鳴りであるが、聴力検査では、左耳八キロヘルツで域値上昇がみられるが、その程度は軽微であり、他覚的所見は一切なく、心因性のものであるとされている。精神神経科における主訴は、耳鳴り、不眠、食欲不振、意欲減退、作業能力の低下、不安、抑欝気分等であるが、他覚所見は全くなく、やはり、心因性のものである。昭和五八年九月一四日順天堂病院精神神経科で後遺障害診断を受けたが、その診断では、昭和五八年六月症状固定し、「事故後より、耳鳴、嘔気、不眠が出現し、改善が著明でなく意欲減退不安抑うつ状態が次第に増悪した。全て事故に起因するものと考えられる。」との記載がある。現在も精神神経科でカウンセリングと投薬(精神安定剤等)治療を受けている。なお、後遺障害については、自賠責保険調査事務所から自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級一〇号の認定を受けている。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  本件事故の後、原告には、多彩な愁訴が現れたが、右治療の経過に鑑みると、その大部分は、本件事故による傷害によるものではなく、本件事故を契機とした心因性の症状が顕在化したものであると考えるほかないものである。ところで、原告は、被告が証拠申立した原告の傷害と本件事故との因果関係についての鑑定を採用することについて消極であつたので、本件事故が右症状の発現につきどの程度寄与したのか明確でない部分があるが、その程度につき、その不明確な点を考慮しつつ、原告の請求し得る損害を検討するに、治療費及び通院交通費については、原告に負担させるのは疑問があるので、被告に全額負担(症状固定後の分は、原告が現在請求している分についても)させることとし、その他の費目の損害については、控え目にみて、耳鼻科の症状固定の時点(昭和五八年一一月三〇日)までの分については五〇パーセント、その後の分については二〇パーセントが本件事故と相当因果関係があるものとするのが妥当なところであろう。前掲の医師の診断は、事故に起因して原告の症状が発現したことを記載しているが、その割合については、医師の意見としては何も判断していないものである。

五  損害

原告は、以下のとおりの損害を受けたことが認められる。

1  治療費 九五万円

原本の存在、成立ともに争いのない甲一三号証から二一号証まで、第二二号証の一から一二まで、第二三号証の一から一六まで、第二四号証の一から一九まで、第二五号証の一から八まで、第二六号証の一から一五まで、第二七号証の一から三〇まで、第二八号証の一から一三まで、第二九号証の一から一二まで、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により治療費として、相当額を支出したことが認められるが、診療明細書の墨東病院分五万五七七〇円、鹿浜医院分七五〇〇円、順天堂病院分七八万一二二五円、合計八四万四四九五円を支出したことは明白であり、その他の領収書は、右診療報酬明細書の最終支出日の後の分が一〇万三一九五円であるので、その以前の領収書についても診療報酬明細書に含まれない分が若干有り得ることを考慮し、少なくとも九五万円の支出をしたものと認めるのが相当である。以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  通院交通費 四万五〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故による傷害の治療のため、前記通院をし、そのため相当額の通院交通費を支出したことが認められるが、その内、四万五〇〇〇円が本件事故と相当因果関係があるものと認めるのが相当である。

3  休業損害 一四二万一九二二円

前記認定の事実に、原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

原告は、本件事故当時主婦のかたわら自宅に美容院を開設し、美容師としても稼働していたものであるが、本件事故のため本件事故の日から前記症状固定の日(昭和五八年一一月三〇日)まで前記諸症状により家事に支障が出るようになり、更に、美容師としても稼働できなくなり、美容院も開店休業状態となつてしまつている。以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。ところで、美容院における収入は、成立に争いのない甲三六号証の一から九まで、第三七号証の一から八まで、第三八号証の一から四まで、第三九号証の一から四まで、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲三五号証、証人堀口公平の証言及び原告本人尋問の結果からのみでは、さほど高額とは思われないのみならず、その額を確定できず、他にその額を明確にするに足りる証拠はないから、結局主婦労働の観点から、休業期間中の中間の昭和五七年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計・全年齢平均の女子労働者の平均賃金二〇三万九七〇〇円をその算定の基礎とするほかないからこの金額を基礎とし、本件事故の日である昭和五六年一二月四日から昭和五八年一一月三〇日までの間、前記諸症状によりその労働能力の七〇パーセントを喪失していたものと認められ、更に、前記のように、その症状のうち五〇パーセントが本件事故と相当因果関係があるものであるから、次のとおりの計算式により原告の休業損害は、右金額となる。

(計算式)

二〇三万九七〇〇円÷三六五×七二七×〇・七×〇・五=一四二万一九二二円(円未満切捨て)

4  傷害慰藉料 八〇万円

原告の、前記のような傷害の内容、治療の経緯その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係がある同人の精神的苦痛を慰藉するための慰藉料としては右金額が相当である。

5  後遺障害慰藉料 八〇万円

原告の、前記のような後遺障害の内容、程度その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係がある同人の精神的苦痛を慰藉するための慰藉料としては右金額が相当である。

6  逸失利益 八〇万一五九九円

前記認定の事実に、原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

原告は、昭和八年一月九日生まれで、症状固定時である昭和五八年一一月三〇日五〇歳であり、本件事故当時前記のように主婦のかたわら自宅に美容院を開設し、美容師としても稼働していたものであるが、本件事故のため美容師として稼働できなくなり、美容院も開店休業状態となつてしまつていることが認められる。右事実に、前記後遺障害の程度、回復状況その他本件訴訟に現れた諸般の事情を総合すると、症状固定の日から七年間、昭和六〇年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計・全年齢平均の女子労働者の平均賃金二三〇万八九〇〇円を基礎にし、三〇パーセントの労働能力喪失があると認めるのが相当であるから、ライプニツツ方式で中間利息の控除をし、更に、前記のように、その症状のうち二〇パーセントが本件事故と相当因果関係があるものであるから、次のとおりの計算式により原告の逸失利益は、右金額となる。

(計算式)

二三〇万八九〇〇円×〇・三×五・七八六三×〇・二=八〇万一五九九円(円未満切捨て)

7  美容院の損害

これについては、前記のように他の費目で判断ずみである。

小計 四八一万八五二一円

8  損害のてん補

原告が自賠責保険から一九五万円の支払を受けたことは、当事者間に争いがないのでこれを右損害から控除することとする。

合計 二八六万八五二一円

六  以上のとおり、原告の本訴請求は、被告らに対し、各自右損害二八六万八五二一円及びこれに対する本件事故の日の後である昭和五九年五月二五日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮川博史)

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